僕にできること いま歌うシリーズ 先行発売PROS-1002/一般販売PROS-22022 ¥2,800(tax-in) «収録曲»
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僕にできること CDジャケット 01 君は薔薇より美しい
(作詞:門谷憲二/作曲:ミッキー吉野)
歌詞/試聴 07 生きがい
(作詞:山上路夫/作曲:渋谷毅)
歌詞/試聴
02 巴里にひとり
(作詞:G.Sinoue /作曲:G.Costa /訳詞:山上路夫)
歌詞/試聴 08 蒼い星くず
(作詞:岩谷 時子/作曲:弾 厚作)
歌詞/試聴
03 木綿のハンカチーフ
(作詞:松本隆/作曲:筒美京平)
歌詞/試聴 09 七色のしあわせ
(作詞:岩谷時子/作曲:いずみたく)
歌詞/試聴
04 さらば恋人
(作詞:北山修/作曲:筒美京平)
歌詞/試聴 10 旅人よ
(作詞:岩谷時子/作曲:弾厚作)
歌詞/試聴
05 廃墟の鳩
(作詞:山上路夫/作曲:村井邦彦)
歌詞/試聴 11 ここに幸あり
(作詞:高橋掬太郎/作曲:飯田三郎)
歌詞/試聴
06 上を向いて歩こう
(作詞:永六輔/作曲:中村八大)
歌詞/試聴 12 見上げてごらん夜の星を
(作詞:永六輔/作曲:いずみたく)
歌詞/試聴

鼻歌から始まった少年の歌心が、今ここで、人々の心に潤いをもたらす
――カバー・アルバム『僕にできること』によせて

青木 優

なんという感情表現の深さなんだろう。聴くほどに楽曲の、そして歌い手の懐の奥に引き込まれていく。しかも優しく、大らかに。そんな作品である。

昭和歌謡のカバー・アルバム『僕にできること』には、ASKAが豊かな歌唱で彩った往年の名曲たちが収められている。ここでは彼の声に身も心も委ね、存分にその歌の世界に浸ればいい。そのぐらい、たくさんのお楽しみが詰まった1枚だ。

このカバー作には、ベースとして、2011年の東日本大震災を受けてASKAが始めた「いま歌うシリーズ」がある。ご存じのとおり、彼は翌2012年の秋に7年ぶりのオリジナル・アルバム『SCRAMBLE』を発表したのだが、その制作と並行しながら、本作も徐々に形作られてきた。

「アンコールで、自分が子供の頃に通ってきた歌謡曲をお楽しみ曲として歌っていて、それがコンサートの場を和らげてくれていたんですね。3.11のあと、そうした曲を本気で歌い、配信という形で得た収益をなんとか義援金として送ることができたらいいな――と思ったんです。『いま歌うシリーズ』は、そうして始まりました」

今やカバー・アルバムは日本のポップ・ミュージック・シーンにおいても定着した文化となっているが、前述のようなきっかけがあるぶん、ASKAの場合はやや異質であると言える。なぜなら、自身の作品世界とは別のアーティスティックな表現の模索でも、もちろん商業的な成果を狙ったものでもないからだ。あくまで聴く人の心に向け、自分の歌で何かできないだろうかと思考した末の発案。アルバム・タイトルはそのものズバリ、なのである。こうして選ばれた歌謡曲は少しずつ録り溜められ、そのうち配信されたのは5曲。それらが今回初お目見えとなる7曲とともに、CDという形に収まることになったわけだ。加山雄三、坂本九の曲がそれぞれ2曲選ばれているなど、興味深いところも多い。「木綿のハンカチーフ」「旅人よ」では、近年の彼のポップネスを鮮やかに引き出している四つ打ちのビートが映えている。

ASKA自身はこのカバー作品の制作過程を非常に楽しんだという。そこではもちろん少年時代の思い出がよぎっただろうし、また、記憶の狭間でぼやけていた歌もあったようだ。子供の頃の彼は、気が付けばいつも♪フンフンフン~と鼻歌で流行歌を歌っていたのだ。

「<ここに幸あり>は、最初のメロディはなんとなく覚えてましたけど、この曲だとは頭の中でつながっていませんでした(笑)。<木綿のハンカチーフ>なんて、いま詞を見ると、なおさらキュンとしますね。何でここまで純粋でいられるんだろうか?と思ってね……」

そう。昭和時代の歌を聴くと、平成の現代とは変質してしまった時代性と、それでも変わらぬ人間の心模様に直面し、さらには日本人特有の心情の機微を感じる瞬間が多い。その上で『僕にできること』には、ASKAの歌心の原点をたどるような感覚もある。

そしてこのアルバムで強く感じるのは、叙情的な曲が多く並んでいること。その場で盛り上がることだけを目的にしたポップソングや、誰かを勇ましく応援するような歌は、今も昔も存在する。しかしASKAがセレクトしたのは昭和の中期以降の、心の深遠部にまでじんわりとしみ込んでくるような歌や、あたたかみとともに強く、気高く生きようとする曲が目立つ。それらは人の内面に、静かなエモーションを与えていくものだ。昭和は、すべての数字が右肩上がりの高度経済成長期で、誰もが夢を見ようとした時代だった。だけど彼がここで歌う歌謡曲には、その高揚の裏側での悲しみ、せつなさ、ほのかな喜びが横たわっていて、そこでそっと立ち上がり、生きていく決心を見せるものが多いのだ。

「そう感じます? 思いつく楽曲で、自分に歌えそうなものを選んだだけなんですけどね(笑)。子供の頃は、まさか自分がこの世界に入るとは思っていませんでしたから、そうした曲をカバーという名の下に歌えている喜びもありますけど……それよりも、なんだか不思議な感覚で、ずっとアルバムを作ってましたね」

気負いがない。なのに、ここまでの表現を成し得ているヴォーカルの力には驚嘆する。それが曲中の濃厚なドラマ性になじんでいるのは、個人的な懐かしさや、そもそもが良質な曲にASKAが浸っているから、という理由だけではないだろう。言うなれば、描かれている背景までを呑み込んで歌にできる、そこまでの人間としての度量があるからではないか――と感じた。

とはいえ、さきの本人の言葉を受ければ、過剰な深読みが野暮だともわかる。配信された際の1曲目になったザ・タイガースの「廃墟の鳩」の歌詞などは、まさにそうしたくなるパターンなのだが、それもお門違いのようだ。

「<廃墟の鳩>は内容がモロなので、最初に配信するのには、実はちょっと抵抗があったんですね。だけど昔の歌だし、3.11が起こる前の年から歌っているから、そこはちゃんとエクスキューズはできるな、と。僕はもうグループサウンズが大好きだったし……<廃墟の鳩>なんかは教会チックなところが好きだったんでしょうね」

そして、主人公が女性の歌についてはどう向かったのだろう。これについても、深読みなどは要らなかった。

「まあ、そこは歌なので(笑)。歌は……何でもできますから。不自由はないですからね」

と、『SCRAMBLE』にも収録された「歌の中には不自由はない」につながったところで、話がまとまった。優しい笑顔を見せるASKA。それは歌に対する、彼の大きな信心を感じた場面でもあった。

『僕にできること』が、少しでもたくさんの人々の心を潤し、明日に向かうためのエネルギーとなることを、強く願っている。